平成29年度 第2回CPD協議会シンポジウム報告
平成29年度 第2回CPD協議会シンポジウム
(平成29年12月22日開催)

 今日、欧州のIndustrie4.0や米国のIIOT そして日本でのSociety 5.0に象徴されるように、膨大なビッグデータを活用するIOT 技術や、深層学習型次世代AI 技術の急進展により、産業構造そのものが地殻変動を起こしつつあります。今回 のシンポジウムでは、こうした“産業新時代”に向けて各界のオピニオンリーダをお招きしてご講演いただくとともに、「産業新時代を支える技術者像と人材育成」をテーマとしてパネル討論を行い、今後我が国の進むべき方向につき議論を深めたいと思います。

開催概要
日 時:平成29年12月22日(金)14:00〜17:10
場 所:東京理科大学 森戸記念館1階 第2フォーラム
主 催:公益社団法人日本工学会 CPD協議会
講演等概要
※講師等の敬称略

■司 会: 高木真人(CPD協議会副会長)

■開会挨拶:須藤亮(CPD協議会会長)

■講 演
  1. 特別講演  「新産業時代を支える技術者像と人材育成」
    国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構理事長 古川 一夫

  2. 産業新時代を支える技術者像と人材育成
    前日本機械学会会長(東京工業大学教授)  岸本 喜久雄

  3. Society5.0時代の工学人材育成〜次世代イノベーション人材の育成を目指して
    東京工業大学環境・社会理工学院 教授   橋本 正洋

  4. 企業から見る産業新時代を支える技術者像と人材育成
    富士通株式会社 常務理事 人事本部副本部長   梶原 ゆみ子

■パネルディスカッション
<産業新時代を支える人材育成に必要なこと>
  パネリスト:渡邉政嘉(新エネルギー・産業技術総合開発機構理事)
         岸本 喜久雄、橋本 正洋、梶原 ゆみ子
  モデレータ:須藤 亮

パネルディスカッション要旨
パネリスト:渡邉政嘉、岸本喜久雄、橋本正洋、梶原ゆみ子(順不同、敬称略)
モデレータ:須藤亮(CPD協議会会長)

須藤)「産業新時代を支える」とは「Society 5.0(ソサエティ 5.0)を実現するために」と読み替えても良い。Society5.0wo実現するための人材育成について各パネリストの考えをお聞きしたい。

渡邉氏)これからの社会について「Society 5.0」、「第4次産業革命」、「Connected Industries」等様々に呼ばれるが、「第4次産業革命」は「Society 5.0」に至る主に技術的な視点に着目した道筋であり、「Society 5.0」を実現する産業政策として、様々な産業が融合・連携しながら新しいモノ・サービスの提供するコンセプトを「Connected Industries」と考えると理解しやすいのではないか。
必要とされる技術者像は多岐に亘り、プロジェクトマネージャの重要性、人材を自ら育てること、国際的認証の必要性が述べられた。

岸本氏)人材育成を議論する際、日本の課題なのか世界の課題なのか分けて考える必要がある。普通の議論では「日本の」であり、日本の国や企業に役立てて欲しいとの前提がある。
基盤となるリベラルアーツ・プロジェクトマネジメント能力・技術的専門性等全てを兼ね備えた人材は居ない。多くを求めて「教え過ぎ」になってはいけない。
一人一人ではなく集合体、チームとして考えた方が良い。その中での自分のポジションを理解することは必要であるが。

橋本氏)博士課程では研究の専門性だけでなく、「課題抽出・解決能力」つまり「研究をする能力」も審査している。MOT専門職修士課程でも、座学だけでなく研究のやり方を講義している。知財やIT、サイバーセキュリティでは高度の専門家の育成が必要であるが、その必要性を経営者に伝えることができる橋渡し人材も必要である。

梶原氏)全能の人は居ないとしても、一つの専門を極めるだけでは足りないということを申し上げたい。足りない所を補ってくれる人も必要であり、そういう人と一緒にやれる人であることが重要。
会社のデータサイエンティストも専門性に加えて、顧客と一緒に考える人の育成に注力している。

須藤)NEDO古川理事長の特別講演ではプロジェクトマネージャの重要性も指摘されていたが、それぞれのお立場からどのように考えるか?

渡邉氏)NEDOはFunding Agencyとして、インプットに見合った成果を出す責務がある。一方、プロジェクトのPDCAを行う人材に対する教育は、OJT中心で系統的ではなかった。最近は、「プロジェクトマネジメントガイドライン」を策定して人材育成に注力している。

岸本氏)教員は自らのディシプリンの教育をしっかりやりたがる傾向がある。人材育成はそれだけでは不十分。東工大の修士コースでは、デザイン思考の教育を始めた。大学人だけでなく学会や企業の協力も必要。

橋本氏)Harvardのビジネススクールでは、20世紀型のCase Methodとは異なる教育を行っている。学部学生を新興国の現場にチームで派遣し、自分たちのソリューションを実践させている。学生全員に何らかの部活動(音楽、スポーツなどのチーム活動)を義務付ける大学もある。

須藤)議論のために反論覚悟で敢えて言えば、マネーシャとしての資質よりはむしろ「専門性」さえ有していれば良いというような仕事も有るのではないか。

梶原氏)もちろん研究所など専門能力を重視する部門もある。実際の仕事では、求める能力に様々なバリエーションがある。新人の研修では、課題解決に共同で取り組む研修プログラムを導入しているが、新たな気づきを得るなど、概ね肯定的な感想が寄せられている。

フロアから)人材育成には時間がかかる。一方企業にはスピードが求められている。直近の人材不足に対応するにはどうすれば良いか。

渡邉氏)AIやIoTで人材不足が言われているが、日本が強みを有する分野との組み合わせ、強い分野の人材がリカレントでAIも勉強する等が有効ではないか。

岸本氏)日本は終身雇用で技術者も社内で育成することが基本となっている。これからは、技術もアウトソースの活用が必要になってくるのではないか。技術者もリカレント型で、勉強しなおして価値を高める努力が必要。

梶原氏)人材不足に対し、AIの出来ることはAIに任せる事が一つ。また、女性がもっと活躍できるようにすること。特に理工系では女性の技術者が少ないが、是非活躍頂きたい。また、ダイバーシティという言葉が本来意味する多様な人材(シニア等)、が多様な働き方を進めることも考えられる。

フロアから)博士課程までリベラルアーツを必須としていることは画期的であるが、その効果はどうか。また、ダイバーシティを実現するためには、従来の知識の再構築も求められるのではないか。

岸本氏)仕事をする上では、志とコミュニケーションが重要ということで、相互の意思伝達の教育を行っている。博士課程の学生には他分野の学生と一緒に取組むことをやらせている。学生相互間の会話が活性化しているという評価がある。一方で、リベラルアーツの表層だけを学生が理解しているのではないかとの危惧もあり、深みまで語れる教育が次の段階の課題である。

梶原氏)多様性といえば、異分野への理解・受容性も含まれる。企業の教育においても、多様性を求め、異なる分野のメンバー間でチーム課題に取組ませている。

須藤)最後に日本工学会への期待は

橋本氏)学会連合体として大所高所からの議論を行い、大学や企業との対話を深めて頂きたい。

渡邉氏)中長期のレンジで大学と産業界が育成する人材のコンセンサスを形成し、合意された領域に関する人材育成活動への投資に関する合意を合わせて行うことがポイント。基盤のディシプリンは当然大学が担うべきであるが、π型のような複数の分野にまたがる活動は学術界の評価が得られにくい。
新しい領域にチャレンジしたことが評価されるような仕組みが望まれる。

■閉会挨拶:石原 直(CPD協議会副会長)
以上
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